筆者は初代iPhoneから数えて長年ずっとiPhoneをメインの電話機として使い続けていますが、iPhone以前の過去に一時期だけ使っていた日本の〝おサイフケータイ〟はとても便利なものだったと思っています。
日本の交通システムに言いたいことはいろいろありますが、FeliCaチップを利用した『Suica』や『PASMO』などの交通系電子マネーも大変便利だと思います。iPhoneでも使いたいですね。
「NFCが内蔵されればあるいは……!」などと偉い人たちが言っていたら、『Galaxy S II』のように日本向けにはNFCが搭載されなかったり『Galaxy Nexus』のように(そもそもFeliCa互換としては動作しない)遅いタイプのNFCが搭載されたりで散々でした。あのような悪夢は一刻も早く忘れましょう。我々には使いやすい電話機が必要です。iPhoneがふだん使う電子マネー搭載型携帯電話として動いてくれればそれでよいのです。
FeliCaチップ内蔵の非接触式ICカードからフレキシブルプリント基板(FPC; シート状の基板。以下、フレキシブル基板)を取り出して携帯電話に内蔵する試みは既に各所で行われていて、このエントリで取りあげるアプローチも目新しいものではありません。
ここで紹介する手順としては、Suicaの圧着部分を切り離し、表層シートを剥がし、溶剤に漬けてフレキシブル基板を取り出し、そのフレキシブル基板を元にiPhoneへ内蔵するための改造を行うというものです(※後日談として、Suicaに加えてEdyをiPhoneへ内蔵したエントリを公開しています)。
記事を公開してから、いくつか質問を受けました。代表的なものに回答します。 (2/12追記)
- 他のFeliCaチップ搭載ICカードでは出来ないのですか?
- 原理的には同じ作業で実現可能だと思います。
- 定期券では利用できないのでは?
- 6ヶ月定期を作成するたびに溶解していれば、あと3〜4回も溶解しているうちにはiPhoneにNFC-Fが搭載されるのではないでしょうか。そうなってくれればこのエントリは無用です。
- ケースでいいのでは? ICカード収納式ケース(※例)があるのでは?
- 生身で持ち歩きたい人もいるでしょうし、好きなケースを使いたいという需要もあるのではないでしょうか。
- 公式に電子マネー、出てますよ……
- たいへんカッコイイシールですね。ところで、白はないのでしょうか。また、これを分解・溶解させればさらに薄くなるのではないでしょうか。
- ジクロロメタンは劇物では?
- Wikipediaによれば(※参考)、環境負荷とヒトへの毒性の懸念から『特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律』によって利用と廃棄が監視されるべき物質、とされています。お住まいの地方自治体の指示に従って廃棄しましょう。
- やり方が難しいし、他に簡単な方法があるのでは? 事業化できるのでは?
- 本文中にあるとおり、このエントリが世界初というわけではありません。検索してみてください。また、下記の約款周りの問題はあるかと思いますが、FeliCa内蔵バックケースを作成する意向の業者様がいるという話も耳にしています(※たとえば『ケータイパラダイス』さんなど)。
- SuicaはJR東日本からの貸与物では? Suicaに関する規約・特約に反するのでは?
- そのとおりですね。ただし、利用規約に反する可能性がある検証を行った上でその結果を公表してはならないとはありませんし、利用規約に反した行為が即ち違法行為というわけでもありません。では、当サイトが過去にSIMカットを行い、不正に変造されたキャリア設定を利用可能としたことも各携帯電話キャリアとの契約約款に反した行為ですし、そもそもの前提としてiPhoneを分解したりjailbreakする行為も約款違反、ひいては無線局としての技術適合違反や電気通信設備の変造となる可能性を考慮したほうがよいでしょう(それらの行為も検証し、ぜひ叩いてください)。
- また週刊Aさんのパクリ記事、出てますよ……
- A社さん一生懸命アフィリエイト記事ばかり書いてますが、大手出版社さんのはずなのにお金ないんですかね。可哀想ですね(※このサイトの広告・アフィリエイトによる収益は月間5~8000円程度です。A社さんの原稿料よりは高そうですね)。
筆者個人としては、我々のような無名の誰かによる技術的検証の積み重ねがなければ、以降よりよい技術は発展しないと思っています。ちなみに、このエントリは公開後24時間で約7万PVほどを叩き出していますが、その閲覧者の中で実際にエントリ内の記述と類似した行為へ及ぶ方はおそらく0.1%にも満たないでしょう。より安全かつ無害な方策でも法的な検証でも構いません。ぜひ、さらによりよい代案を作ってください。
Suicaを溶かすための準備
SuicaのICカードとしての構造は、ループコイルとFeliCaチップが搭載されたフレキシブル基板を2枚のPVC樹脂で挟み、さらにその表層に印刷を施したPET-G樹脂を重ねた、計5層で構成されています。
このカードを溶媒であるジクロロメタン(塩化メチレン)溶液に浸すと、PVC樹脂やPET樹脂は溶媒に負けて溶解しますが、フレキシブル基板を構成するポリイミド樹脂は溶けないため、最終的に基板だけが取り出せるという寸法です。
溶かすカードはFeliCaチップの載ったものであれば用途に応じて何でもよいのですが、Suicaであれば〝MySuica(記名式)〟をおすすめします。オートチャージの設定をすればチャージの手間も省けますし、もし失敗しても紛失扱いで再発行(※手数料が必要)することが可能です。
なお、オートチャージを設定しない場合は、ニューデイズやセブンイレブンなどの対応したコンビニ等でチャージする必要があります。
また、Suicaの残高確認のためには、FeliCaリーダーの接続されたPCやSuica対応の自動販売機にかざしたり、キングジム『RELET』などのようなガジェットを使用する必要があります。
溶かすカードが用意できたら、圧着部分を剥がすためにSuicaの緑色の塗装部分に沿ってカードを切り取るとより作業がしやすくなります。
Suicaの圧着を剥がす
本当はもっときちんと表層の塗装部分を剥がすとよいようですが、横着をしました。ジクロロメタンは揮発性が高い上に樹脂を侵しますので、このようにフタ付きのガラス容器があるとよいです。
これは理科の実験などでおなじみのガラスシャーレ(90mm)です。これだとちょっと余裕がないので、120mmくらいのシャーレだとよりよいかも知れません。
不純物のないジクロロメタンであればもっと作業が楽なようですが、入手性のよいジクロロメタン溶液には安定剤として若干のポリマー樹脂やエタノールなどが添加されています。
筆者は東急ハンズで『アクリダイン #1』30mlを2本購入して使用しました。
- 溶液について追記
- 塩化メチレンでなくとも、アセトンなどで大丈夫なようです。アセトン溶液であればネイルリムーバー(除光液)などとして入手も容易で、毒性も少ないため廃棄に関しても塩化メチレンほど気を遣わなくて大丈夫です。いずれにせよ揮発性が高いため、容器の密閉性や室内の換気に注意してください。
Suicaをジクロロメタンで溶解させる
カードを入れたシャーレにジクロロメタン溶液30mlを注いで9時間ほど放置してみると、このようにでろでろに溶けています。
が、取り出して洗浄してから溶解している部分を剥がしてみたところ、まだ完全には樹脂が溶けきっていません。
特に溶けていないのがFeliCaチップ周りの樹脂だったので、無理矢理剥がすよりはもう一度同じように溶解させたほうが安全です(※とは言っても、フレキシブル基板周囲のコイルも損傷させてはいけません)。
2本目のジクロロメタン溶液を注いで9時間ほど放置してから同じように洗浄してみると、今度はこのようにほぼ綺麗にフレキシブル基板だけが残りました。細かなところは手作業で剥がしましょう。
この状態でFeliCaリーダーである、ソニー『PaSoRi RC-S370』にかざすと、正しく読み取られてSuicaの残額が表示されることが確認できます。
ところで、ここではMacBook Air 11のMac OS X Lion上でVMware Fusionから実行したWindows 7へPaSoRiを接続してソフトウェアを実行していますが、ややこしいのでそろそろMac版(Lion対応)のドライバとソフトウェアが欲しいですね。
Suicaのシート基板をiPhoneへ取り付ける
さて、iPhoneへこのフレキシブル基板を内蔵するというパターンの場合、場所の第一候補としてはやはり比較的改造の容易なバックケース部分となるでしょう。
この写真ではバックケースと基板を合わせただけですが(この状態では、ガラス側をかざしてもFeliCaリーダーは反応しません)、ケースとフレキシブル基板とのサイズ的な関係もよく、リアパネルである1.2mm厚のガラスは電波を通しますし、バックケースフレームに張られたアルミパネルは補強と熱分散以外にも外部からの電磁波シールドとしての役割を果たしています。このガラスとアルミパネルの間にフレキシブル基板を仕込むのが理想的です。
(2/12追記) エントリ公開後、アルミパネル部分のないバックケースフレームのパーツ提供を受けました(※ガラスパネルはVerizon版iPhone 4のものです。ご提供元: 『モバイルカスタム』さま)。
以下の左側のように樹脂フレームだけになっています(右側はApple純正品)。以降、本欄と同じくカコミで紹介します。
カスタムパーツを使用する場合は簡単でよいのですが、iPhoneに最初から組み込まれている純正パーツを解体するのは、接着が強固で割と手間がかかります。純正を残しておいて、このようなパーツ(※4黒用、他は4白・4S黒・4S白など……?)を用意して使用するとよいかもしれません(※おそらくサードパーティ製なので純正ほど接着強度が強くないのではないでしょうか)。
筆者のiPhoneは、LEDカスタムなどに使われるクリアロゴパネルとブラックのバックケースフレームを組み合わせて使用しているため、この接着をいったん剥がして間に内蔵することにしました。
場所としてはこのあたりに貼り付けるとよいでしょうか。だいたいAppleロゴの左下あたりにFeliCaチップが来る感覚になります。
Suica読み取り時における、電磁波の影響を防止するために
このままパネルとケースフレームを貼り合わせると本体側からの微細な電磁波の影響で読み取りエラーが発生しやすいため、磁性シートでフレキシブル基板への影響を抑えます。
筆者はflux『flux CARD』を使用しました。
このカード様の外装は表と裏から貼り合わされたシールですので、間からカッターなどを入れると剥がせます。『flux CARD』は片面に対してだけ磁性を許容しますので、グリーンの文字で〝PASS〟と書かれていたほうをマークしておいてください。厚みを減らすため、両面の外装を取り払いましょう。
これで中の磁性シートだけを取り出すことが出来ました。残ったテープ材を綺麗に処理しましょう。
磁性シートの〝PASS〟側とフレキシブル基板を貼り合わせます。フレキシブル基板の表裏はあまり関係ありませんが、筆者はガラスパネルに当たるほうを平面側(FeliCaチップが圧着されていないほう)にしました。
SuicaをiPhoneへ組み込んで完成へ
基本的にバックケースのみの改造ですので、組み付ける際もネジ2本で済みます。
ガラスパネル側に位置決めして両面粘着テープを貼り付け、ここにフレキシブル基板側を取り付けます。
ガラスパネルをバックケースフレームに取り付けて、いったんPaSoRiへかざして正常に読み取れることを確認します。
(2/12追記) フロントユニット(LCDパネル)側まで分解できる場合、このようにLCDパネルの背面に仕込むことが可能です(この場合も磁性シートはあったほうがよいです)。こうすると、LCD側でSuica・バックケース側でEdyといったように、2枚の電子マネーを併用することも可能ではないでしょうか。
このまま組み付けると、LCD周囲がしなって液が拡散するため虚像が出ます。0.3mmのプラ板でスペーサーを作りました。
このスペーサーをこのようにして組み込むと液晶表示も正常になります。
表側であるガラス面をかざすと読み取れて、裏側であるアルミ面をかざして何も起こらなければ正常です。組み立てましょう。
いたって普通のiPhoneです。ひょっとしたら0.2〜3mmほど厚くなっているかも知れません。この状態でまた、PaSoRiにかざしてみましょう。
果たして今回も正しく読み取れました。おめでとうございます。これでうっかりiPhoneを改札に叩きつけても通過できないという悲しい事案すら防ぐことができますね。
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